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本革はサスティナブルではないのか?
『本革は「まだまだエコな素材」だ』
と思うのですが、皆様はどのような考えを持たれていますか?
最近はサスティナブルやSDGsなどが頻繁に叫ばれるようになりました。
SDGsに至っては投資家が投資先を選定する要素の1つとして取り上げられるほど注目もワードとなっています。
そんな中、たびたび「本革はサスティナブルに反する素材」という言説を耳にするようになりました。私たち皮革産業に携わる人間にとっては逆風ともいえる内容です。
逆風だからこそこの問題についてはきちんと考える必要があますよね。
今回のブログは、Flathorityの枠を飛び出して、エコやサスティナブルとレザーの関係について私の考えをお伝えできればなと。
文頭にある「本革はまだまだエコな素材」が私なりの結論なわけですが、どうしてそのような考えに至ったのでしょうか。
思考の経緯を追いながら、本革とサスティナブルを取り巻く状況を整理していきます。
今回は少しセンシティブな内容となるので賛成や反対の声が上がるかもしれませんが、どうぞお付き合いください。
それでは、いきましょう!
そもそもサスティナブルとは?
そもそもサスティナブルとは一体なにを指す言葉なのでしょうか。
子どもの学習教材でおなじみのベネッセ公式サイトにサスティナブルの定義が掲載していたので、そのまま転載します。
サステナブル(Sustainable)は、sustain(持続する)とable(〜できる)からなる言葉。「持続可能な」「ずっと続けていける」という意味があります。
現在、世界の人たちが共通の目標として取り組み始めているのが「サステナブル(Sustainable)」な社会の実現です。
サステナブルとは?SDGsに向けた世界の取組み | サステナブルな社会へ from Benesse(よく生きる)より引用
つまり、「人間社会をより延命させるために協力しましょう」ということです。
そのために国連では17個のゴールを設定して取り組むことを決定し、これがSDGsというものになります。
近年騒がれている地球温暖化や異常気象へ具体的な取り組みをしましょうということで、日本も先進国の1つとしてSDGsに積極的です。
その中で槍玉に上がっているのが畜産産業になります。
実は畜産業は温室効果ガスの約14%を担っているとされており、温室効果ガス削減を強く依頼されている産業です。
Flathorityがいる皮革産業は畜産業とは切っても切れない関係にあるため他人事ではありません。
畜産業が槍玉に上がるということは、皮革産業も槍玉に上がっている状況ということになります。
牛のゲップが地球温暖化の一因?
さらに世間から本革がエコではないと呼ばれる要因に牛の存在があります。
牛は環境負荷が高い畜産と言われており、その1つの原因が牛のゲップです。牛の胃で発生しゲップとして排出される成分にメタンが含まれています。
「メタン」は二酸化炭素と比べると25倍の温室効果があるされており、世界中の温室効果の4%を締めているんだとか。
牛も脱炭素の時代! | NHK | ビジネス特集を参照
ここまでの内容はお分かりいただけましたか?
いったん簡単に整理してみましょう。
・皮革産業は畜産業と切り離せない関係性にある
・その畜産業は環境負荷の高い産業である
・特に牛は環境負荷が高い
サスティナブルの条件や牛の特性を一見すると、牛の皮を鞣して作られる牛革はサスティナブルではないように思えてきませんか?
また、上記には記載がありませんが、皮を革へ加工する鞣しには大量の水を使います。水質汚染も重要な課題となっています。
ここまでの内容を見ると、本革が環境面から非難されることもなんだか納得してしまいそうです。
しかし、冒頭にも申し上げたように、私は「本革はまだまだエコな素材」だと考えています。
皮革産業に従事しているため、多少のバイアスはかかっているかもしれませんが、まずは私の考えへ耳を傾けていただければ幸いです。
2023年現在の環境においては、本革はむしろエコにつながる素材である
それでは私が「本革はむしろエコ」と考える理由をざっとご紹介します。
・原皮は食肉の副産物
・タンナーも環境負荷低減を目指した活動に力を入れている
それぞれ詳しく見ていきましょう。
・原皮は食肉の副産物
私が本革をエコとする最大の理由がこちらになります。
本革の元となる皮は、原皮が欲しいために屠殺するのではありません。
「食べるため」に屠殺され、食べない部分である皮を革へと加工するのです。
日本古来の言い方を使えば「もったいない」の精神であり、生き物に感謝して無駄なく使い切る知恵ともいえるのではないでしょうか。
例えば、皮が欲しくて無駄な殺生をしていたら、それは批判されるべきです。
しかし、現状の皮革を取り巻く環境では、食肉の副産物として原皮をいただくのが常識となっています。
人がお肉を食べ続ける限りは、本革は無駄を無くす工夫といえるのです。
では、仮に原皮を革へ加工しない場合はどのようなことが起こるでしょうか?
少し考えてみました。
人はお肉をまだまだ食べているわけですから、当然、皮は生まれ続けます。
それら皮を革へしない場合、皮はただの産業廃棄物です。焼却処分となり、CO2が発生しますね。
廃棄するためには廃棄費用が掛かりますから、その費用はお店に並ぶお肉の価格に上乗せされるでしょう。
これはエコやサスティナブルと言えるでしょうか?
私にはエコとは思えず、本革へ加工した方がいいと思わずにはいられません。
・タンナーも環境負荷低減を目指した活動に力を入れている
先ほど少しだけ「鞣すには大量の水が必要」と述べましたが、水質汚染は昔から皮革の大きな問題点でした。
しかし、近年は環境面へ考慮して浄水施設を導入するタンナーも増えてきました。
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Flathorityの人気アイテムであるコインブラトートLのメインマテリアルであるイタリアンレザーも環境負荷低減に力を入れたタンナーから生み出されています。
そのタンナー名はマストロット社です。
マストロット社は1958年創業の老舗タンナー。イタリア国内において最大規模のタンナーで、その生産量は世界的に見てもトップクラスです。
外部の認定機関であるLWG(レザーワーキンググループ)から最高ランクのゴールド認定を受けていて、ゴールド認定を受けるには自社浄水施設の設置やCO2排出量の厳しい規制をクリアしなければなりません。
環境意識の高いヨーロッパを中心にタンナーも変化しつつあります。Flathorityもそれら環境面や質の伴った素材を使用しているのです。
本革の代替案とされているヴィーガンレザーは発展途上
最後に本革の代替素材として期待されているヴィーガンレザーについても触れておきましょう。
世界最大手のラグジュアリーブランドのエルメスもマッシュルームレザーを取り入れるなど、注目を集めつつあるヴィーガンレザー。
ヴィーガンレザーとは、植物性の素材を原料として、植物性または石油を合成して作られる人工皮革です。
これまでの人工皮革と比べれば石油の使用量を抑えた素材も開発されているけれどまだまだ限定的。
環境負荷低減の面や、そもそもの質感は発展途上といえます。
今後期待される素材ではあるものの、まだまだ代替しきれるほどの素材でもないといった状況といえるでしょう。
おわり
本革とサスティナブルについて思いの丈を語ってきました。
皆様は何を感じられましたか?
私の結論は冒頭にあるように「本革はまだまだエコな素材」との考えです。
その理由が「2023年現在、人々がお肉を食べているから」になります。
本革の原皮は食肉の副産物ですから、本革へ鞣さない方がもったいないといえます。
人がお肉を食べなくなった時、本革はサスティナブルでなくなるかもしれませんが、そんな世界は当分訪れないでしょう。
以上から、私には本革はまだまだエコだと思えてなりません。
様々な意見があるサスティナブルと本革の関係性ですが、皆様はどのような感想を持たれたでしょうか。
私個人としては自信を持って皮革産業に携わっていきたいと思います。
本日は以上です。では、また!
マストロット社のイタリアンレザーを使用したアイテム
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