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【モノ作り特化】ハーネストート超マニアック解説
今月初旬にリリースしたシリーズFD。はやくも雑誌に取り上げられるなど、盛り上がりをいただき本当にありがとうございます。
特にトートバッグは人気でフルレザーでも軽くて折りたたむことも出来き、レザーバッグとは思えない気軽さが魅力です。
Dual Harness Tote L (FD-104) ¥57,200(税込)
実はこちらのトートバッグは機能に勝るとも劣らないほど「作り」の部分に特徴があります。
なんと今回製作を担当した職人は我々の中でもトップクラスの実力者でして、年間6万本の革製品を手掛けるモノ作り集団である㈱猪瀬の最高を詰め込みました。
つまり、軽快な使い心地に加えて【フルレザー×最高のモノ作り】のバッグなのです。
本記事ではよりモノ作りにフォーカスして参ります。手間を掛けたポイント、製作における苦労話まで、職人の生の声をお届けします。
最後までご覧いただければ良いモノ作りの定義まで見えてきますので、一緒にチェックしていきましょう!
超マニアックなモノ作りの裏側
内容を紹介していく前に1つアナウンスです。今回の記事はかなりマニアックな内容となります。
話が右往左往しないように使い勝手やデザインには敢えて触れず【縫製】【断面の処理】【その他】と、皆様のような熱心な方にだけに届くように心を込めて語っていく予定です。
是非、覚悟を決めて付いてきてくださいね!
縫製編
まずは我々の根幹を成す縫製についてご紹介します。
実は今回の縫製、、、、、めちゃくちゃ難しいんです。
何が難しいのかを理解するために前提となる情報を2つお伝えします。
それは「基本的に糸の色は革の色に合わせる」と「ミシンの糸は上側と下側の2本で構成されている」です。
前半は何となくイメージしやすいのではいでしょうか。例外としてデザインの観点から革と異なる糸の色を採用することもありますが、基本的に糸と革は同色です。
後半のミシンの縫製については、以下の画像を見ていただければ分かりやすいのではないでしょうか。
このようにミシンで縫製すると糸が上と下に分かれ、中心で交差します。そのため、表から見えるステッチは上糸だけ、裏からは下糸だけが見えるのです。
さて、前提知識が揃ったところで、ハーネストートの縫製を難しくする要因を確認しましょう。
最も縫製を難しくするポイントは「表と裏で革の色が異なること」にあります。
ご覧の通りハーネストートは表と裏の革を直接張り合わせる構造です。
このとき、革の色が同じであれば、上糸と下糸を同色にすることができます。一方、ハーネストートは表と裏で革の色味が全く異なりますから、糸も2色使うことになりました。
ここでの懸念点は、ミシンの糸は力の加減を間違えると、下糸が表面へ露出することにあります。(逆に上糸が裏面に露出することもしばしば)
この知識を元にハーネストートのネイビーを見てみましょう。
表面に下糸が露出している場合、表から黄色のステッチが見えるはずですが、本作では一切見えておりません。
1つ前の画像にある黄色の裏面を見てみても、紺色の上糸は確認できないかと思います。
つまり、上糸と下糸が完全に釣り合った状態であり、糸同士の重なりが、革の内部にピッタリと収まっているのです。
これを業界用語で「糸調子を合わせる」と表現します。縫製士にとって基本の基でありながら、これが案外難しいのです。
特にハーネストートは、革の厚みも他のバッグの構造よりも余裕がありません。加えて、異なる色の糸を使用していることから、少しでも糸調子がズレると目立ってしまいます。職人にとっては面倒な構造といるでしょう。
そんな面倒を敢えて取りに行くのがFlathority。実際に非常に生産効率を落としていまして、何本かは縫い直しを行っています。
レザーは生地と異なり、一度開いた穴は塞がりません。つまり、縫い直すということは全ての針穴を拾い直すことになります。まるで、砂浜を歩いてから自分の足跡を踏み直して戻る行為に等しいです。これをミリ単位で行うのです。少しは大変さが伝わるのではないでしょうか。
ちなみに、ハーネストートの胴には形状を保つための芯が入っています。この芯も縫製を難しくする一因なのです。
サイド部分には芯がないので、胴とサイドで微妙に硬さが異なります。つまり、糸の調子を胴とサイドでも変更しなければなりません。都度、ミシンの設定を変えるのも一苦労なのは想像いただけるかと思います。
続いて、もう一度このトートバッグのミシン目自体に注目してみましょう。普通とちょっと違いがあることにお気づけましたか?
ハーネストートは全てミシンで縫われているのですが、まるで手縫いのような美しいステッチとなっています。
通常のステッチといえばこんな感じ。
真っ直ぐな1本の線のような形状です。一方、ハーネストートはステッチが斜めに走っているのがお分かりいただけるかと思います。
斜めのステッチは世界のトップブランドでも採用されている形状で、菱針(別名:LR針)と呼ばれる特別な針を必要とします。
このLR針が曲者でして、通常の針よりも扱いが難しくなります。美しいステッチワークの裏には職人の技術と手間があると知っていただければ幸いです。
断面の処理編
ここまで縫製についてご紹介してきました。ここまで読み切った貴方はすでに革マニア・モノ作りマニアといっても差し支えありません。
さらに深くモノ作りの世界を味わっていきましょう。
ハーネストートは9割以上のパーツがイタリアンレザーとピッグスキンの貼り合わせで構成されています。
革同士をくっつけた後に再度裁断することで均一な断面を実現しているのですが、大事なのはその後。コバ液という仕上げ材を塗ることで滑らかな断面へ仕上げていきます。
このコバ液は柔らかいクロム鞣しされた革へ塗るのが大変難しいんですよね。弊社では硬化剤という断面の柔軟性を削ぐ溶剤を使うなど、塗り方を工夫しています。
また、ハーネストートは裏地のピッグスキンが大変鮮やかですから、コバ液がピッグスキンへ浸透しないようにマスキングテープで保護するなど一手間を欠かさないようにお作りしました。
また、コバ液は1度塗れば終わりというものではありません。塗りと削りを繰り返し、よりなだらかで密着性の高い状態まで練り上げます。
革の断面はあまり確認しない箇所かもしれませんが、ハーネストートではぜひご注目ください。
その他編
最後はその他として2つご紹介します。
1つ目は【革の重なりへの丁寧さ】です。、、、これだけでは伝わりませんよね。
ハーネストートの内側をご覧ください。
胴とサイドの重なり部分が1cm程度あります。糸によりきちんと縫い付けられていますが、ステッチの場所が断面から少し離れていますよね。
ここは糊でくっついているのですが、下ごしらえを怠ると早々に剥離する恐れがあるのです。
簡単に剥がれてこないようにするため、重なりの内部は革の表面へ傷を付けて粗しています。そうすることで、繊維の密着度が増して簡単には剥がれなくなるのです。
見えない箇所にも丁寧さが詰まっていると知っていただければ幸いです。
2つ目は【身体に優しいハンドル】になります。、、、これも何言っているか分かりませんよね。笑
ハンドルを見てみましょう。
一見するとただ裁断しただけのシンプルな形状です。ですが、トップクラスの実力派職人はここでも違いを発揮します。
このハンドルを持ってみると、全く不快感がないんです。
単純に裁断しただけのハンドルであればこうはいきません。断面の角が立って、その角が手や肩に当たると不快感に繋がります。
その不快感を軽減するべく、革の断面をカンナで削り、微妙な丸みを出しているのです。
神は細部に宿るとはよく言ったものですが、ハーネストートは正に細部をトコトン丁寧に仕上げたトートバッグと言えるでしょう。
おわり
ここまでご覧いただき本当にお疲れ様でした。
今回はかなりマニアックな内容でしたが、モノ作りの妙や良いモノ作りとは何か感じていただけましたか?
終わりまでご精読いただき本当にありがとうございます。
すでにハーネストートをお手にしている方は愛着を増すキッカケとなったのではないでしょうか。
ハーネストートはフルレザーでありながら、まるで生地のトートバッグのような使い心地でデイリー使いにおすすめの鞄です。
ぱっと見たときのシンプルさや色使いの大胆さに目が行きがちですが、実は職人の技がタップリと詰まった一品でもあります。縫製から断面の処理、ハンドルまで【長く使い続けられること】や【使い勝手を向上させること】に注目した丁寧さを味わってみてください。
本日は以上です。
では、また!
シリーズFD一覧
Dual Harness Tote L (FD-104) ¥57,200(税込)
Dual Harness Tote M (FD-103) ¥49,500(税込)
Dual mini sholder Bag (FD-102) ¥19,800(税込)
Dual Gyoza Porch (FD-101) ¥8,800(税込)