先日、Flathorityの人気皮革であるプエブロレザーを製造するバダラッシカルロ社のシモーネ・レミ氏による講演会に参加しました。
今回は、レミ氏のレザーに対する考え方から現代の消費に関することがらまで、バダラッシカルロ社のモノ作りに対する情熱をご紹介します。
近年、ファストファッションとハイブランドが席巻し、洋服や小物の大量生産・大量消費が常態化しています。しかし、その対極に位置する「スローファッション」や「スロークオリティ」といった概念が、レミ氏から提唱されました。
品質の裏側にある彼らの考え方は、ただ物を作るだけでなく、価値あるライフスタイル全体を見つめ直すものでした。
様々なテーマが挙がった講演会でしたが、今回は、筆者の胸に最も刺さった「スローファッション」と「スロークオリティ」に焦点を当てていきたいと思います。
※講演会はイタリア後の通訳を通して行われました。また、私の記憶とメモを通して執筆しているため、レミ氏の意図と異なる解釈が混ざっているかもしれません。その点、ご承知いただき読み進めていただければ幸いです。
では、いきましょう!
バダラッシカルロ社の背景
まず、講演会の内容をお伝えする前に、まずは、バダラッシカルロ社の背景やプエブロレザーの特徴を少し振り返っておきましょう。
プエブロレザーとは、イタリアのバダラッシカルロ社が製造するバケッタレザーの一種です。
バケッタ製法では、牛脂や魚脂を使い、ゆっくりと時間をかけて加油することで、独特のしっとりした質感を生み出します。また、経年変化しやすいという特徴があり、時間が経つに連れて、深みのある光沢が増していくのが特徴です。
プエブロレザーはこの伝統的な製法を守りつつ、自然由来の傷やしわをそのまま活かした表情豊かなレザーとなっています。
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講演会の中でも強調していましたが、バダラッシカルロ社はただ「革を売る」企業ではなく、「文化を売る」企業だという強い理念を持っています。
加えて、バダラッシカルロ社の品質とは、ライフスタイル全般に対しての品質を重要視することであるとも言っていました。これは、筆者の解釈なのですが、ライフスタイル全般に対する品質とは、製造するレザーだけでなく、従業員の健康、社会からの要請に対しての応答などといったあらゆる事柄への品質を上げていくことだと思います。
彼らにとってレザー作りは単なる仕事ではなく、価値観そのものを体現する象徴的なものなのです。
イタリアのモノ作りは淘汰されつつある【対岸の火事ではない】
イタリアは長い歴史を誇る職人技術の国として、世界中から高品質な革製品やファッションアイテムが評価されてきました。
しかし、レミ氏の口からは革小物の製造業などはほとんど無くなったと語られました。その要因の一つは、世界的な価格競争により低単価の製品が求められるようになり、イタリア国内の生産基盤が徐々に海外へと流出してしまったことにあります。
レミ氏は「日本にはまだ作り手の意志が残ったモノ作りが生き残っていて市場に受け入れられている」と仰っていましたが、モノ作りの土台が消えつつあるのは、今や日本でも起こっています。
かつて日本も、モノづくりに対する情熱と職人気質を大切にし、世界中でその技術力が高く評価されてきました。しかし、近年ではイタリアと同じく、ハイブランドとファストファッションの2極化が進み、職人が手間暇をかけて作り上げる製品よりも、安価で手軽に手に入る製品が消費者に支持されるようになっています。
とはいえ、レミ氏が語ったように、日本にもまだ職人の意志を尊重するモノづくりが若干残っています(我々も頑張っている一員でもあります)。しかし、それが今後も持続できるかどうかは不透明です。日本も、安い価格を求める消費者のニーズに応えるために、伝統的なモノづくりが淘汰される危機に直面しているのです。
スローファッション・スロークオリティの意義
レミ氏が強調していたのは、「スローファッション」と「スロークオリティ」の重要性でした。
近年、ファストファッションの影響で、大量に生産され、短期間で消費される衣服やアクセサリーが主流となり、使い捨てのように扱われることが多くなっています。しかし、レミ氏はこれに真っ向から異議を唱えています。
レミ氏いわく「本当に環境に対しての対策をするのであれば、行き過ぎた大量生産・大量消費を改め、良いものを少なく使うべきだ」とのこと。
実際、現在作られる衣服のうち、73%が廃棄されているというデータもあり、この問題を解決するためには消費者の意識改革が必要です。スローファッション、スロークオリティという概念は、物を長く大切に使うという文化を再び見直すための鍵となるでしょう。
また、バダラッシカルロ社が目指す「高級品」についても言及がありました。
現在、何が本物の高級品なのかという定義がしづらくなっている。ハイブランドはどんどん値上げをしていき「値段だけをみた価値」と「単純な物の価値」が乖離してきていると感じているそうです。
ちなみに、バダラッシカルロ社が掲げる高級品とは、単に価格が高いという意味ではなく、長く愛され、修理しながら使い続けられるものを指します。
天然の素材には、動物由来の傷や自然の痕跡が刻まれており、これこそが「唯一無二」の価値を持つのだという考え方です。時間をかけて育て、使い込むことで独自の美しさが増していくプエブロレザーは、その象徴的な存在ですね。
環境認証の利権と真のサステナビリティ
話題はサステナビリティを通じて、現在の環境認証に関する事柄へ展開してきました。
バダラッシカルロ社は、欧州やイタリア国内の厳しい環境基準を遵守しており、法令違反をすれば営業停止にもなり得るほどの高い基準でレザーを生産しています。
レミ氏は、昨今の環境認証についても痛烈な批判を展開しました。彼が述べたのは、環境認証が単なる「利権」であるという指摘です。
「取引を続けたければ認証を受けろ」といった要求を受けた経験を持つバダラッシカルロ社ですが、その認証団体の資本関係に「認証を受けろ」と命じてきた企業の名前が含まれていたんだとか。これは、明らかに利益追求の構造が存在しているとのことを指します。
認証自体が商業的なもので、本質的なサステナビリティを目的としたものではないという立場を示しました。
バダラッシカルロ社はこうした利権に屈することなく、法令と独自の厳しい基準に基づいて生産を続けています。真のサステナビリティは、「環境認証」に頼らず、消費者がどのような製品を選ぶかという意識改革から始まるというメッセージが強調されていました。
プエブロレザーが体現するスロークオリティ
講演の中で、プエブロレザーに対する興味深い質問もありました。
プエブロレザーは人気を博したことから、市場にコピー商品が出回っています。そんな中、バージョン2や類似品を出さないのかという問いに対して、レミ氏は断固として「しない」と回答しました。プエブロレザーは現在の形で「完成」しており、その独特な質感や経年変化を保つために、バケッタ製法の伝統を守り続けているからです。
また、軽量化を求める声に対しても、バダラッシカルロ社はプエブロレザーの品質と価値を守ることを優先しています。たしかに軽量な革製品は便利かもしれませんが、プエブロレザーの重厚感こそが、その長年の歴史と職人技の結晶なのです。
日本の「もったいない」が今こそ必要かもしれない
バダラッシカルロ社の「スローファッション・スロークオリティ」という提唱は、今の消費社会に一石を投じる考え方です。単にモノを消費するのではなく、その背景にある文化やライフスタイルまで含めて価値を感じることが求められています。
ある意味では、日本に古来からある考え方である「もったいない」こそ現代に求められる思考法なのかもしれません。
レミ氏が講演会で話された内容やプエブロレザーが体現するのは、そうした一貫した哲学と、職人の誇りです。

左:レミ氏(バダラッシカルロ) 真ん中:筆者(Flathority) 右:チャンペリーニ氏(ワルピエ)
今後、私たち消費者も「良いものを少なく、長く使う」という価値観を持ち、スローファッションやスロークオリティを意識していくことが、持続可能な未来を作る鍵になるでしょう。
本日は以上です。
では、また!
プエブロを使用したアイテム
Land Mini wallet (FP-511) ¥16,500(税込)
Land Mini cardcase (FP-512) ¥11,000(税込)
Land Long Wallet (FP-502) ¥27,500(税込)
Land Glasses Case (FP-507) ¥13,530(税込)