次世代レザー代替素材の最新動向【キノコ・培養】

AIなどの技術革新が盛んな昨今ですが、進化しているのはIT分野に留まりません。実は皮革産業も日進月歩で変化しているのをご存知でしょうか。

ロボットのイメージ

国内ではまだまだ「手仕事による古い産業」というイメージが先行しています。しかし、海外では環境保全の観点から、主に素材分野での技術革新が日々行われているのです。

そこで、今回はFlathorityでも取扱いのない、次世代レザー代替素材について動向をチェックしてきます。次世代レザーとはそもそもどのようなものか、世界で今何が起こっているのか、一緒に学んでいきましょう!

 


次世代レザー代替素材とは何か?

https://www.mycoworks.comより参照

 

次世代レザー代替素材とは、動物の革に代わる新しい革風素材のことです。

代表的なものに、キノコの菌糸体から生成する「マイセリウムレザー(マッシュルームレザー)」や、動物細胞を培養して作る「培養レザー(ラボグロウンレザー)」があります。この他にも植物由来の成分や廃材を組み合わせたバイオ素材レザーなど様々。いずれも動物の皮を使用せず、従来の合成皮革のようなプラスチックも極力使わないため、環境負荷の軽減や倫理面で注目されています。

特に近年、これら次世代レザーの開発・商用化が加速しており、一般の消費者が実際に手に取れる製品も登場し始めています。

 


マイセリウムレザーの進展

マイセリウムレザーは、キノコの菌糸を培養して得られる革様の素材です。

中でも米国スタートアップのMycoWorks(マイコワークス)社はこの分野をリードしており、2023年末から2024年にかけて大きな進展がありました。

 

「Reishi」の品質向上と特徴

マイコワークス社のマイセリウムレザー素材「Reishi(レイシ)」は、きめ細かな菌糸体を独自技術による培養をすることで、高級天然皮革に匹敵する質感・強度・耐久性を実現しています。

同社は2024年に新たな鞣し工程「Rei-tanning」を導入し、水や摩耗への耐性など性能面をさらに向上させたと発表しました。その結果、従来のバイオ素材が課題としていた耐久性や品質のばらつきを克服しつつあります。実際、レイシの炭素排出量はわずか2.7~5.8 kg-CO₂/㎡と試算され、牛革の約35 kg-CO₂/㎡に比べ格段に低く、プラスチック含有量もほぼゼロで生分解性も有する点で環境性能が高い素材です。

 

MycoWorksの量産体制確立

2023年10月、サウスカロライナ州に世界最大級のマイセリウムレザー工場を開設し、本格稼働を開始。2024年1月には同工場で高品質なレザーシートを1,000枚以上収穫し、初の商業出荷を達成しました。

 

商品化と提携の動き

マイコワークスは長らくエルメスをはじめ高級ブランド向けの試作品開発を行ってきましたが、いよいよ商業製品への実装が始まりました。2024年にはフランス高級家具メーカーのLigne Roset(リーン・ロゼ)が同社のレイシを大型ソファ「Kobold(コボルド)」に採用し、パリで開催の展示会で発表。

コボルドソファは2025年版のリーン・ロゼ公式カタログに掲載されており、市販製品として購入可能になりました。

レイシ製ソファは日常使用に十分な耐久性を備えており、インテリア分野で高品質なサステナブル素材が実用段階に入ったことを示しています。

 

他のマイセリウムレザー企業

マイコワークス以外にも、この分野には複数のスタートアップが存在します。

米国のBolt Threads(ボルトスレッズ)社はマイセリウムレザー「Mylo™(マイロ)」で早くからアディダスやステラ・マッカートニーとの協業を打ち出していましたが、2023年に資金調達が難航したためマイロの生産を一時停止すると報じられています。

他方、米国Ecovative(エコバティブ)社は2024年に約2,800万ドルの資金を調達し、独自のマイセリウムレザー新ブランド「Airloom(エアルーム)」の投入計画を明らかにしました。

エアルームは9日間で成長する菌糸由来のシートで、CO₂排出量は通常の革の半分以下に抑えられています。同社は2025年シーズンに向けてエアルームの商業化を進めており、カルバン・クラインやトミーヒルフィガーを傘下にもつPVH社ほか複数ブランドから素材採用の関心を集めています。

このように近年、マイセリウムレザー分野では、菌糸由来の素材が環境性能と機能性の高さから引き続き期待されており、今後も多くのブランドが注目していくことでしょう。

 


培養レザー(細胞培養によるレザー)の最新動向

動物由来の細胞を培養して本物の革に近い構造を作る培養レザー(ラボグロウンレザー)の分野でも重要な動きがありました。

培養レザーは動物由来のコラーゲンを同じように含むため質感の再現性が高く、従来の革比でCO₂排出90%削減、水使用80%削減など環境メリットも大きいと報告されています。

アメリカのVitroLabs(ビトロラボ)社は、ラグジュアリーブランドのケリング(グッチやサンローランの親会社)や俳優レオナルド・ディカプリオから出資を受け、高級品質の培養レザー試作品を世界で初めて公開した先駆者です。

しかし製品化までの資金調達と技術向上のハードルは高く、2025年5月に仏スタートアップのFaircraft(ファイアークラフト)社がビトロラボ社の資産・特許群を買収するという業界再編が起こりました。

ファイアークラフト社は「ラグジュアリーファッション向けの細胞培養レザーを工業規模で生産する」ことを目標に掲げております。すでにパリ拠点の施設で月数平方メートル規模の革を試作しつつ複数の企業(契約上名前非公表)と提携開発を進めているそうです。

2025年時点では少量生産に留まりますが、2年以内に初のパイロット生産設備を設置し、そこから本格的な量産に移行する計画です。すでに資金調達にも成功しており、量産用の機械開発やチーム拡充に充てるとされています。また伝統的な革職人の技術も活用し、仕上げ工程(なめし・染色など)では既存のラグジュアリー向けタンナーと協働する方針です。

なお培養レザーのスタートアップは他にも世界中に多数存在しますが、現時点で一般消費者向け製品を販売できる段階に至った企業はまだありません。しかし、技術・特許の共有や業界内での提携が進み始めたことで開発スピードが上がっております。数年以内には高級ブランドを皮切りに実製品が市場投入されるかもしれません。

このカテゴリーは研究開発の要素が強いものの、ラグジュアリーファッション業界からの関心も極めて高いため、今後も動向に注目です!

 


バイオ素材レザーの台頭

上記の培養レザーと厳密には手法が異なりますが、バイオテクノロジーと植物由来成分を組み合わせた新素材レザーの商用化も進んでいます。その代表格が米国のModern Meadow(モダンメドウ)社です。同社は独自のタンパク質ポリマー技術によるプラントベース(植物由来)レザー代替素材に注力しています。

モダンメドウの主力商品INNOVERA™

モダンメドウ社は2024年9月、次世代レザー代替素材「INNOVERA™(イノベラ)」を商業規模で生産できる能力を確立したと発表しました。年間50万㎡以上を生産可能な設備を整え、ミラノの国際革見本市でも製品を公開しています。

イノベラは80%以上が再生可能由来の炭素で構成され、植物性タンパク質とバイオ由来ポリマーを組み合わせて作られた素材です。石油由来や動物由来の成分を含まず、見た目や手触り、性能は天然皮革を模しており、自動車・靴・家具・ファッションなど既存の製造工程にそのまま組み込める実用性が特徴です。

 

商業化と製品展開

モダンメドウは自社で素材を製造しつつ、様々なブランドとのコラボレーションを進めています。例えば豪州発のバッグブランドBellroy(ベルロイ)とは戦略的パートナーシップを結び、2025年後半にイノベラ製の財布やバッグなどアクセサリー類を発売予定です。ベルロイの製品は従来から環境配慮型素材を積極的に採用してきましたが、イノベラを組み込むことで動物由来ではない革製品を提供し、耐久性や質感でも本革を凌駕するパフォーマンスを実現するとしています。

実際イノベラは植物性タンパク質等から作られたにもかかわらず従来の牛革の2倍の強度を持ち、軽量で高い耐摩耗性を示すと報じられています。モダンメドウ社によれば、この素材は使用後にリサイクルも可能で、環境負荷低減と循環型デザインを両立できる点もセールスポイントです。

 


その他の植物由来レザー代替

植物や廃棄物を活用した次世代レザー素材はモダンメドウ社以外にも多数登場しています。

例えば米国のNatural Fiber Welding(NFW)社が開発した「MIRUM®(ミラム)」は樹脂を使わず天然ゴムや植物油などで作る100%植物ベースのレザー代替素材です。

こちらはすでにファッションブランドのバッグやシューズに採用され始めています。ミラムについては国内ブランドでも取扱いを見たことがありますね!

自動車業界でもBMWが2023年発表の次世代EV「Neue Klasse(ノイエクラッセ)」の内装にミラム製のバイオ素材を組み込む計画を明らかにするなど、従来は本革が当たり前だった高級車の内装にも革新的素材が試験導入されつつあります。他にもステラ・マッカートニーのバッグにも使用されたりと、既に実践投入され、世界的に承認されつつある代替素材といえるでしょう。

こうした植物由来の「ヴィーガンレザー」は以前からパイナップル繊維やコルク、リンゴ残渣など様々な素材で研究されてきましたが、近年は耐久性や質感を向上させたハイエンド向け材料が続々登場し、市場投入フェーズに移っています。

 


消費者にとっての変化と今後の展望

ここまで次世代レザー素材の台頭をご紹介してきました。では、これらの次世代の素材たちによって一般の生活にはどのような変化が訪れるのでしょうか。

 

製品選択肢の拡大

まず顕著なのは、一般消費者が購入できる製品として既に次世代レザー代替素材採用アイテムが登場しつつあることです。

前述のように、2025年にはリーン・ロゼのソファに代表される高級家具や、ベルロイの財布・バッグのような毎日使えるファッション小物に新素材が実装され、市場に流通しています。加えて、まだ一部ではありますが、素材開発メーカーのサイトから直接次世代素材のサンプルキットを購入することも可能になりました(国内ではまだ難しそう)。これまで「革新的素材」は展示会や限定コレクションの中だけの存在でしたが、日常生活で手に取れる現実的な選択肢として少しずつ浸透し始めているのです。

 

サステナブル志向への対応

次世代レザー代替素材がもたらす大きなメリットの一つは、環境・倫理に配慮した購買を実現できる点です。

従来の本革製品は動物愛護の観点や製造過程での環境負荷に懸念があり、また合成皮革はプラスチック由来でマイクロプラスチック汚染の原因にもなり得ました。これに対し、マイセリウム/培養/植物ベース各レザーは動物を犠牲にせず、有害化学物質の排出も最小限です。最終的には土に還るポテンシャルも評価されています。

食肉が続く限り、本革も立派な持続可能素材ではありますが、様々な思想の方へ向けて選択肢が増えるのは良い傾向ですよね。もっとも、次世代レザーが注目される今だからこそ、副産物として生まれる本革の価値も再確認したいところです。畜産から出る原皮を余すことなく活用し、 10 年、20 年と修理を重ねて使い続けられる ── それ自体がサステナブルな循環型ライフスタイルにつながる選択肢でもあります。

 

品質・実用性の向上

消費者目線で重要なのは、新素材とはいえ品質や使い勝手が既存の革と同等以上であるかという点です。

あくまでもデータが示す限りで実物を確認したわけではありませんが、近年の開発動向を見る限り、このハードルは着実にクリアされつつあります。

マイコワークス社のレイシは耐久性・手触りとも「ファインレザーの風合いそのもの」として評価され、実際に日常使用されるソファでその耐久性が実証され始めました。

「エコだけど脆い代用品」ではなく「エコでしかも性能が良い素材」へと進化しているため、消費者が品質面で妥協する必要が少なくなっています。残る懸念は長年の使用における経年劣化の実観察でしょうか。まだまだ新しい素材ということもあって、体験ベースによる報告は極わずか。特に5年10年と使われた実績はありません。これらの情報が出揃うところを待ちたいところでもありますね。

 

価格と普及への課題

一方で、現段階ではこれら次世代レザー製品の多くが高価格帯にとどまっているのも事実です。最先端の素材開発にはコストがかかるため、まずは高級ブランドの限定商品やハイエンド家具から導入が進んでいます。例えばレイシを使ったエルメスのバッグは非常に高価で限定的でしたし、リーン・ロゼのソファも高級家具のカテゴリーです。

しかし、量産体制の確立により価格帯の幅を広げ、市場を拡大する計画が各社から示されています。

マイコワークス社は新工場稼働によって「様々な価格帯の製品を提供し市場を広げる」ビジョンを掲げています。今後、生産規模拡大と技術改良によって中価格帯以下のブランドにも材料提供が可能になるかもしれません。そうなれば、我々の身近な量販店や大手ファッションチェーンでも「次世代レザー製品」が当たり前に並ぶ日が来るでしょう。

 


おわりに:次世代レザー代替素材がもたらす未来

近年、マイセリウムレザーや培養レザーをはじめとする次世代レザー代替素材は実用化段階に入り、徐々に市場で存在感を高めています。

現在は主に高級ブランドで採用が始まった段階です。技術の進歩と生産拡大により価格面・供給面の障壁が下がれば、一層広範な製品カテゴリーで普及するかもしれません。これは消費者にとっては、これまで選択肢の少なかった「エコかつ実用的な製品」を手に入れられるチャンスが増えることを意味します。

本革も副産物の有効活用としては、依然として有効な素材といえますが、様々な立場によってレザーへの向き合い方は変わってきます。Flathorityとしては、数千年の歴史と実績、耐久性も証明されている本革という選択肢を手放すつもりはありませんが、新世代の素材とも共生しつつ、互いに価値を高めていきたい所存です。Flathorityの商品はこちら

今回ご紹介した新世代素材の台頭は、私たちのライフスタイルや購買行動を今後大きく変えていく可能性を秘めています。これからの動向に引き続き注目していきましょう。

本日は以上です。

では、また!

 


参考文献・情報源

MycoWorks
interior daily
innovera
MIRUM
greenqueen
textiletechsource
eleminist
fashiondive
us.fashionnetwork
modernmeadow