みなさん、いきなりですが「バッグ」と「鞄」、普段どう使い分けていますか?
「いやいや、使い分けるも何もないよ。英語と日本語の違いでしょ」と思われた方もいるかもしれません。
確かに日常的には同じ意味で使われることが多いのですが、実は日本の皮革業界や職人の間では、この2つの言葉は明確に区別されています。
正確に表現すると「ハンドバッグ」と「鞄」なのですが、この違いをご存じでしょうか。
2つの言葉の違いを知ると、革製品選びがもっと面白くなります。今回は、一見同じに見える「バッグ」と「鞄」に隠された意外な真実を深掘りします。
「ハンドバッグ」と「鞄」は別の意味があった
結論から言うと、この2つの言葉は、成り立ちも、使われるシーンも、そして求められる機能もまったく違います。
簡単に言えば、
- 鞄 = 道具
- ハンドバッグ = ファッション
このシンプルな図式が両者を分ける本質です。
さらに、法的な側面から見ると、家庭用品品質表示法でもこの違いが読み取れます。(消費者庁HPより)
この法律では、かばんが「書類などを入れる、実用的なもの」として分類される一方、ハンドバッグは「袋物」として別の品目に分類されています。
これは、かばんが道具としての機能性を重視されるのに対し、ハンドバッグは装飾的な側面も持つという考えに基づいていると言えるでしょう。
以降では、なぜこのような違いが生まれたのか、それぞれの言葉の歴史や製造方法の違いについて、さらに詳しく見ていきましょう。
言葉の定義と歴史に秘められた真実
「鞄(かばん)」の誕生
「かばん」という言葉が広まったのは明治時代。文明開化により西洋から様々な文化や道具が流入するなかで、書類などを持ち運ぶための革製ケースを指して「鞄」と呼ぶようになりました。
当時は軍人や官僚、学生が使用する実用品であり、耐久性や機能性が何よりも優先されました。
「バッグ」の定着
一方、「バッグ」は英語の “bag” が日本語化した言葉です。戦後、ファッション文化が多様化すると、デザイン性を重視したアイテムが登場し、アクセサリーやコーディネートの一部として扱われるようになりました。
そのため、「バッグ」という言葉は、ハンドバッグ、トートバッグ、ショルダーバッグなど、ファッション性の高い入れ物を指すことが多いのです。一方、ビジネスで使われるバッグは「ブリーフケース」と呼ばれ、ブリーフバッグとはあまり呼ばれません。
たとえば、可愛らしい色や装飾が施されたブランド品を「鞄」と呼ぶことはほとんどありませんよね。このように、私たちの感覚値にも、バッグと鞄の違いが根付いていると言えるでしょう。
製造方法に見る違い
では、実際に製品を作る職人たちは、この2つの違いをどのように表現しているのでしょうか。職人に「ハンドバッグ」と「鞄」の違いを尋ねると、共通して以下の特徴を挙げます。
ハンドバッグ(ファッション向け)の特徴
- 女性向けのデザインが多い
- プライベートやオフの場面での使用が中心
- 発色やデザインを重視
- 手に持ったときの軽さやフィット感が重要
- 気分や用途に合わせて複数所有される傾向
鞄(実用向け)の特徴
- 実用性・耐久性を重視
- 革や仕立ての質の高さが求められる
- 直線的で堅牢な印象
- ビジネス(オン)用途が中心
- 男性的なニュアンス
- ひとつのものを長く使い込む傾向
これらの違いを生む技術のひとつが、「漉き(すき)」です。
漉きとは、革を専用の機械で薄くする加工のこと。一見地味な工程ですが、これが製品の仕上がりを大きく左右します。
- ハンドバッグは軽さやしなやかさを優先するため、革を大胆に薄く漉きます。これによりデザイン性は高まりますが、強度は低下します。
- 鞄は強度を優先するため、厚みを残して漉きを抑えます。その結果、自立するほどの堅牢さが生まれます。
後述しますが、これはあくまでも傾向です。レディースバッグとして確かな地位を確立しているHERMESでは、革を極端に薄くすることもありませんし、あくまでも傾向としてお考えください。
余談ですが、薄く漉きすぎると、バッグ内部にある芯材の質感が表に出てきてしまいます。不自然な跡ができないよう、革の貼り方やミシンのかけ方に技術が求められるそうです。ハンドバッグと鞄に求められる技術は全く異なるため、それぞれ専門のノウハウを必要とします。
求められる特徴の結果、必要とする製造方法まで違いがあるというわけですね!
現代では境界が曖昧に
ここまで「ハンドバッグ」と「鞄」の違いを解説してきました。言語の違い以上に、明確な定義があることをご理解いただけたのではないでしょうか。
ただし、この定義は歴史的なものであり、現代ではその境界は徐々に曖昧になっています。
男女平等、価値観の多様化により、極端な二分化はなくなりつつあります。ユニセックスや男性もファッショナブルになっていくことで、バッグに求められる特徴もミックスされてきました。
結果、デザイン性と機能性を両立したビジネストートや、ファッション性のあるバックパックなど、両者の要素を取り込んだ製品が数多く登場しています。
つまり、ハンドバッグと鞄の違いはグラデーションであり、絶対的なものではありません。
Flathorityの製品も「鞄的な堅牢さ」を基盤にしつつ、「ハンドバッグ的な華やかさ」を加えたものが多く、現代のニーズに沿ったモノづくりを続けています。
Dual Harness Tote L FD-104 ¥57,200(税込)
とはいえ、法的にも慣習的にも、感覚値でも「ハンドバッグ」と「鞄」が分けられているのも現実です。今後、さらに境界はなくなっていくのでしょうが、まだまだ違いがあることを知っておくと面白いですよ!
まとめ
革製品産業内では、「ハンドバッグ」と「鞄」を言語の違い以上に、意味として明確に区別しています。
簡単に言うと、「ハンドバッグ=ファッション」「鞄=道具」という違いがあり、この区分は法的な基準にも基づいています。
この違いはそれぞれの製品の特徴や製造方法にも表れています。
一方で、現代では機能性とデザイン性を兼ね備えた製品が増え、両者の境界線は曖昧になってきました。あくまでもグラデーションであることを知っておきましょう。
このように、普段何気なく使う「バッグ」と「鞄」という言葉にも、歴史や職人の哲学が詰まっています。この背景を知ることで、革製品選びがより楽しく奥深いものになるはずです。
本日は以上です。
では、また!